『魅惑の霧島』第四回【ミヤマキリシマ】 

かの坂本龍馬が新婚旅行で霧島を訪れた際、「きり島つゝじが一面にはへて実つくり立し如くきれいなり」と姉のオトメに手紙を書いたと伝わっています。

訳すと、「霧島ツツジが一面に生えて、本当に人が作ったように綺麗だ」と言うところでしょうか。ネットでざっと見ても現代語訳されているものがなかったのですが、こんな感じだろうと思います。

 

 この霧島ツツジと言うのがミヤマキリシマなのですが、名付けの親は日本植物学の父、牧野富太郎です。

私個人的にはかなり久しぶりに目にした名前でした。小学生の頃に伝記でも読んだのでしょうか。

 そこで改めて調べてみると、牧野は日本植物学の父と呼ばれるだけあって、たくさんの植物記や図鑑を残しているだけでなく、すごく多くの植物の新種発見や命名をしているかたでした。

 そんな中で、素敵な言葉を残していらっしゃいました。

雑草という名の植物は無い」というものです。とかく人は、一度に多数の人に応対する仕事に慣れてくると、「お客様」「聴衆」「生徒」「民衆」などと一緒くたに扱いがちですが、そこに厳しい戒めをいただいたような感じです。

 

 さて、牧野が「深い山に咲くツツジ」と言うことで名付けたミヤマキリシマ(深山霧島)ですが、その名に負う霧島だけに咲く花ではないんです。

九州の割と標高の高い場所にのみ咲く花です。しかも、火山活動がある程度収まり、周りの植生生態系が成熟してくるとその生存場所を追われてしまう、なんとも健気な植物です。

単なる小ぶりなツツジではないんですね。

 花の色は、多少の濃淡はあるもののほぼピンクのみ(淡い桃色から赤味の強いものもあり)。

みなさんが、もし春に九州地方の山に行くことがあり、緑の中に鮮やかなピンクを見かけたら、それはミヤマキリシマかもしれません。

 

 龍馬、牧野を魅了した霧島ツツジは、きっと私たちの心をも虜にしてくれるでしょう。そういえば、偶然にも、牧野は龍馬と同じ土佐出身でした。

写真:霧島市観光写真素材ライブラリーより